目次
レビュー概要
この機種を実際に購入し、数週間ほど持ち歩いて使い込んだ。選んだシーンは、いわゆる観光地やイベントではない。夜の終わりと朝の始まりが混ざる時間帯、閉店後の商店街のシャッター列、コインランドリーの蛍光灯、開店前の路地裏バー、ビル屋上の植栽に残る雨の粒、そんな少しだけ人目から外れた場所だ。池袋の高架下で風が抜ける瞬間、交差点の信号待ちでふっと呼吸が合う瞬間、写したのは空気の密度と気配。使ってすぐにわかったのは、露出がシンプルで、考えすぎないほうがいいということ。迷わず構えて押す。その潔さが、結果として後から強く効いてくる。
フラッシュは必要な場面でだけ使う。反射する素材と濡れた路面は、フラッシュの光と相性が良かった。粒子は荒すぎず、でも滑らかでもない。ざらりとした肌触りが、夜の湿度や金属の冷たさとよく馴染む。失敗も当然ある。光が足りない、手ぶれした、思ったより近かった。それでも、巻き上げの感触と軽さに背中を押されるように、次のコマへ進める。何度か夜明け前のバス停で待ちながら、一本を撮り切った。戻ってきたプリントを並べると、そこにあるのは整った写真というより、歩いた軌跡そのもの。狙い通りでないカットにも、やけに目が留まる。偶然の方が鮮明に残ることがある。「こういう写真が撮りたかったんだっけ?」と自分に問い返しながら、現像された一枚一枚を眺める時間も含めて、写ルンですを選んだ理由なのだと思う。
使用感レビュー
購入してからおよそ2週間ほど使い続けてみて、最初に感じたのは「軽い」ということだった。手に取った瞬間に拍子抜けするくらい軽くて、ポケットに入れても存在感が薄い。良い点としてはその気軽さで、持ち歩くことに全くストレスがない。逆に悪い点は、最初に巻き上げるときのカリカリとした感触が少し頼りなく感じられたこと。壊れるわけではないが、「本当に撮れているのかな?」と最初の数コマはちょっと不安になる瞬間があった。
日常の中で特に印象的だったのは、夜に友人と小さなバーに立ち寄ったとき。スマホで撮ると光が強すぎて雰囲気が飛んでしまう場面でも、このカメラでは柔らかく写り、場の空気をそのまま閉じ込めてくれるような感覚があった。暗い場所での撮影は難しいと思っていたが、フラッシュを焚いたときの独特の光の広がりが逆に味になり、後で現像した写真を見返すと、その瞬間の空気まで蘇るようだった。
使用前は「昔ながらのカメラだから操作が面倒なのでは」と思っていたが、実際は巻き上げとシャッターだけのシンプルさで、むしろ気楽に構えられる。期待していた以上に直感的で、撮ることに集中できるのが心地よい。ギャップとしては、思ったよりもシャッター音が控えめで、静かな場所でも気にならない点が意外だった。もっと大きな音が鳴ると思っていたので、これは嬉しい誤算だった。
操作性は単純明快で、誰でもすぐに慣れる。質感はプラスチックの軽さが前面に出ているが、それが逆に「気軽に使える道具」という印象を強めている。静音性は先ほど触れた通りで、シャッター音も巻き上げ音も控えめ。安定性については、軽いので手ブレが心配だったが、意外としっかり撮れている。取り回しは抜群で、片手でさっと構えて撮れるのは大きな魅力だ。
ある日の午後、散歩中に立ち寄った古い喫茶店で、窓際の席に座りながら何気なく撮った一枚がとても印象的だった。光が斜めに差し込む瞬間を逃さずに撮れたのは、このカメラが常に手元にあったからだと思う。スマホだと構えてアプリを開いて…と少し準備が必要になるが、このカメラはただ巻き上げてシャッターを押すだけ。その即時性が、日常の小さな瞬間を残すのにぴったりだった。
また、週末に郊外の小さな美術館へ行ったとき、展示室の静けさの中で撮影した場面も忘れられない。音が響くような場所だったが、シャッター音が控えめなので周囲を気にせず撮れた。写真を撮る行為そのものが邪魔にならず、空間に溶け込むような感覚があった。これは使ってみなければ分からない体験で、期待との大きなギャップだった。
さらに、夜の帰り道に街灯の下で撮った写真は、現像してみると独特のざらつきがあり、思わず「これぞフィルムだな」と感じた。デジタルでは得られない質感が、日常の風景を少し特別なものに変えてくれる。こうした体験は、ただの記録ではなく「思い出を形にする」行為として強く心に残った。良い意味で便利さよりも「撮る楽しさ」が前面に出てくるカメラだと、使い込むほどに実感している。
特徴
この「写ルンです LF JDV1 SP FL 27SH 1」を手に取ったのは、スマホやデジカメで撮る写真が便利すぎて、逆に一枚一枚を大切にできなくなっていると感じたからだった。日常の記録は簡単に残せるけれど、どこか味気ない。そんな感覚をリセットしたくて、あえてフィルムで撮るという選択をした。特に、旅行やイベントではなく、もっと何気ない瞬間を残したいと思ったときに、このカメラなら「撮るぞ」という意識が自然に生まれるのではないかと考えた。
開封したときの印象は、軽さとシンプルさに尽きる。箱を開けるとすぐに本体が現れ、説明書を読むまでもなく操作が直感的に理解できる。プラスチックの質感は決して高級ではないが、逆に気軽に持ち歩ける安心感がある。電源ボタンもなく、フィルムを巻き上げる音が「これから撮るぞ」という気持ちを高めてくれる。初めて触れる人でも迷うことがない構造で、すぐに撮影に入れるのが大きな特徴だと感じた。
実際に使ってみると、フラッシュの存在が頼もしい。暗い場所では必ず必要になるが、ボタンを押すだけで準備が整うシンプルさが心地よい。ただし、フラッシュを使うと独特の白飛びが出やすく、人物の肌が少し硬い印象になることもあった。これは癖として受け止めるしかないが、逆にその不完全さがフィルムらしい味わいにつながっている。巻き上げレバーの感触も独特で、カチカチとした抵抗が「次の一枚」を意識させる。連写はできないが、その制約が撮影体験を特別なものに変えてくれる。
仕様面で特に印象的だったのは、27枚撮りという制限と、ISO400のカラーネガフィルムを内蔵している点だ。枚数が限られていることで、撮影のリズムが自然に変わる。普段なら何枚も撮って選ぶところを、このカメラでは「この瞬間を残すかどうか」を考えてからシャッターを切るようになる。結果として、撮った写真には自分の判断が強く反映され、後で見返すと「なぜこの場面を選んだのか」が思い出として蘇る。スペックそのものが体験に直結していると強く感じた。
また、レンズの描写は決してシャープではないが、柔らかい雰囲気を作り出す。特に屋外の自然光では、少し淡い色合いが出て、デジタルでは得られない独特の質感になる。逆に室内では光量不足が顕著で、フラッシュを使わないとかなり暗く写る。これは仕様上の限界だが、だからこそ光を探す楽しみが生まれる。窓際や街灯の下など、光のある場所を意識して撮るようになり、写真を撮る行為そのものが丁寧になる。
フィルムを巻き上げる音、シャッターを押した瞬間の軽い感触、フラッシュがチャージされるわずかな待ち時間。これらすべてが仕様に基づいた体験であり、数字やスペック表では表せない部分だ。特に「待つ」という行為はデジタルではほとんどなくなってしまったが、このカメラでは自然に組み込まれている。その待ち時間が、撮影をより意識的なものに変えてくれる。
使い続けるうちに、癖も見えてきた。例えば、ファインダーの見え方と実際の写りには微妙なズレがある。最初は戸惑ったが、慣れると「写ルンですらしい」と思えるようになった。完璧にフレーミングできないからこそ、偶然の要素が写真に入り込み、思いがけない表情や構図が生まれる。これは仕様上の制約でありながら、体験を豊かにする要素でもある。
総じて、このカメラの特徴は「制限が体験を形作る」という点に尽きる。枚数の制限、フラッシュの癖、ファインダーのズレ、そして巻き上げの手間。これらはすべて不便に見えるが、実際に使うと写真を撮る行為そのものを特別にしてくれる。スペックは単なる数字ではなく、撮影者の意識や行動に直接影響を与える。だからこそ、写ルンですを使うと「写真を撮る」という行為が改めて新鮮に感じられるのだ。
メリット・デメリット
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 携帯性 | 本体が非常に軽く、ポケットやバッグの隙間に気軽に入れておける | 軽さゆえに最初は質感が心もとないと感じることがある |
| 操作性 | 巻き上げとシャッターのみのシンプルな操作で、初めてでも迷わない | 連写や細かな設定ができず、シーンに合わせた細かな調整はできない |
| 描写・画質 | フィルムならではの粒状感と柔らかいトーンで、日常の風景に味が出る | デジタルのような高精細さはなく、暗所ではノイズ感が強く出ることがある |
| 暗所撮影 | 内蔵フラッシュで暗いシーンも撮影でき、独特の雰囲気が生まれる | 近距離では白飛びしやすく、人物の肌が硬い印象になりがち |
| 撮影枚数 | 27枚という制限が一枚一枚を大切に撮る意識につながる | 気軽に試し撮りや連続カットを量産したい人には物足りない |
| 体験価値 | 現像を待つ時間や偶然写り込んだシーンなど、写真が「思い出を育てる」プロセスになる | 撮ってすぐに結果を確認できないため、即時性を重視する用途には向かない |
まとめ
富士フイルム 写ルンです LF JDV1 SP FL 27SH 1を実際に使ってみて、まず感じたのは「シンプルさが心地よい」ということでした。デジタル機器に囲まれた日常の中で、余計な設定を考えずにシャッターを切るだけという体験は、逆に新鮮で集中できる時間を生み出してくれます。満足した点は、やはりフィルム特有の柔らかい描写と、光の加減によって偶然生まれる表情の豊かさです。特に夜の街灯や室内の間接照明を撮ったとき、デジタルでは得られない独特の粒状感が写真に深みを与えてくれました。
一方で惜しい点を挙げるなら、フラッシュの光量がやや強めで近距離では白飛びしやすいこと、また撮影枚数が限られているため気軽に連写できないことです。ただ、その制約が逆に一枚一枚を大切に撮ろうという意識につながり、結果的に写真への愛着が増しました。「失敗したかも」と思ったカットほど後から見ると心に残っている、ということも何度かあり、偶然を受け入れる懐の深さもこのカメラの魅力だと感じます。
向いている人は、旅行やイベントといった「ザ・被写体」だけを撮りたい人というより、日常の散歩で見つけた小さな風景や、趣味の作業場での記録、友人との何気ない夜更けの語らいを残したい人です。生活の中の「特別ではない瞬間」を切り取ることで、後から見返したときに温度や空気感まで蘇るような体験ができます。デジタルの高画質さよりも、写真に映り込む時間の流れや心の揺れを大事にしたい人には、特に相性が良いと思います。
長期的に見て買って良かったと思う理由は、写真を現像して手に取るまでの時間が、待つ楽しみを再認識させてくれるからです。スマホで即座に確認できる便利さももちろん良いのですが、数日後に仕上がったプリントを手にしたときの喜びは格別で、思い出をより強く刻み込んでくれます。フィルムを使い切るまでの時間、現像を待つ時間、写真を並べて振り返る時間。そのすべてを含めて、このカメラは単なる記録装置ではなく「思い出を育てる道具」として、これからも手元に置いておきたい一台だと感じました。
引用
https://www.fujifilm.com/jp/ja/consumer/film-camera/quick-snap
※本記事にはアフィリエイトリンクを含みます
